底辺からの視線

中年親父目線で気づいたことを雑記的に書き殴るブログ

好き勝手に生きていて諭されるのは分かるが・・・

昔々、今から20年以上も前の話。

くたびれた親父がピチピチの新入社員だった頃、まだまだクールビズなんて言葉もなく、クソ暑い夏でもスーツにネクタイが当たり前で、半袖のボタンダウンにノーネクタイで出勤する新人なんているはずもなかった時代。

多様性、ダイバーシティなんて言葉もなく、誰から同じ服装、同じ髪型。金太郎飴のように周りと同じじゃないと「変な奴」とか「変わり者」なんて呼ばれていたのですが、当時の僕は最先端、20年後のスタイルを貫き通していました。

そんな僕は会社では「変わった新人」として認識をされ、同期の女子からも奇妙奇天烈な人間だと思われていました。

女子たちは僕の知らないところで『ひらめの七不思議』などと陰口を叩き、こき下ろしていました。

その七不思議とは、記憶が曖昧ですが以下の7点でした。

  1. 馴れ馴れしいのにキモくない
  2. エロいのに行動しない
  3. 女好きなのに彼女がいない
  4. 自己中心的なのに嫌じゃない
  5. 態度が悪いのに可愛がられている
  6. 高学歴なのに頭が悪い
  7. 生活感がまるでない

要するに、一般人からすると行動が読めない『不思議ちゃん』だったようです。ただ、全ては人生をラクして生きるために必要な知恵であり、計算高く緻密に考えられた行動で、気が合いそうな人間だけが集まってくれ、僕のことが嫌いな人間は近寄ってこないようにするため、大袈裟にキャラを演じてた結果です。

当時は、特定の女子と仲良くなるより、広く浅く多くの女子と仲良くする方が楽しかったし、周りの女子たちも、そんな僕を求めている気がしていたのです。

ですが、そんな『不思議ちゃん』キャラは損をすると真剣に僕を叱ってくれた娘(仮に『奈央』とします)がいました。

以下の投稿の続きです。

男のメンツなんてくだらない。女子に押し付けるものではない - 底辺からの視線

色々とあった同期会、そして女子会に参加した後、イチバン迷惑をかけた奈央に詫びを入れるため、飲みに誘いました。もうすでに終電間際でダメ元でしたが「行くよ」とショートメールが返ってきました。

奈央と僕は、付き合っているわけではなく、ただ仲が良いだけなのですが、会社ではお酒が飲めないキャラを演じている奈央と飲み歩いているというのは、バツが悪いというか、なんとなく、みんなには内緒にしていました。

「奈央さん、大丈夫? 終電・・・」

「大丈夫。さっきママに『恭子んちに泊まる』って連絡しておいたから」

「えっ? 俺とお泊まり?」

「ひらめが本当に『エロいのに行動しない』か確認する?」

(・・・これは誘っているのか? からかっているのか?)

「行動しないなんて奈央さんに失礼でしょ? 行こう、すぐにホテ・・・」

「冗談に決まってんじゃん」

(だよね・・・)

「なんか奈央、疲れたよ・・・。お酒を飲まずにはいられない。行こう」

「うん」

東京の街は終電だろうが関係なく、いつでもお酒が飲めるのです。ということでちょっと雰囲気の良い半個室の居酒屋へ。

「「お疲れっ!」」

「奈央さん、今日は色々とご迷惑をおかけ致しました・・・」

「うん。本当に疲れた・・・」

「肩でもお揉み致しましょうか?」

「うん。お願い」

席を立ち、奈央の肩を揉む・・・。

「すげ〜凝ってんじゃん!」

「・・・気持ちいぃ」

奈央の良い香りに包まれながら、無言で肩をしばらく揉んでいました・・・。今日は本当に迷惑をかけたので、罪滅びしを兼ねて尽くそうと思っていました。

「ありがと。凄くラクになった」

「いえいえ。これくらいしか出来ませんので・・・」

「飲もう」

「うん」

奈央の正面の席に戻り、飲み始めると大きな眼を正面から見る感じで、なんとなく居心地が悪いというか、背筋をピンとしてしまいます。なんて思っていたら、急に奈央の目から涙が溢れ出てきました・・・。

(待て待て。どういうことだ? 何が起きている?)

「どうした?」

隣の席に移動して奈央の顔を覗き込むと僕の胸に顔を埋め、奈央が本気泣きをはじめました・・・

「どうした?」

無言で泣く奈央・・・。

「どうした?」

店員さんが空気を読んで、無言でおつまみをおいて行ってくれましたが、絶対に僕が泣かせたと思っているハズ・・・。

「奈央、どうしたの?」

「・・・怖かった・・・」

「何が? いつ?」

「・・・喧嘩見たの初めてだったから・・・」

「うん・・・。ごめん・・・」

「・・・女子たちは、みんな『ひらめ、よくやった!』って言ってたけど、奈央は怖かった・・・」

「うん・・・」

「・・・その後も、なんか、ずっと怖かった・・・。良かった、いつものひらめで・・・」

「うん。ごめん・・・」

「・・・そもそも、ひらめの態度が悪いから勘違いされるんだよ・・・」

「うん・・・」

奈央が泣き止むまで、しばらくそのまま、奈央に責められていました。

「落ち着いた?」

「うん。大丈夫・・・」

(大丈夫・・・だよね・・・)

「よし、飲もう」

「うん」

女子たちとの二次会まで、奈央は僕が喧嘩を売った側の悪者だと思っていたらしく、早くその場から退出させて落ち着かせなければならないと必死で、外に連れ出してからも、戻って殴りかかるんじゃないかとずっと不安だったそうです。

二次会で女子たちに細かい経緯を聞き、僕が喧嘩を売った側ではなかったので、ひと安心をしたのですが、そもそも挑発に乗ってしまった僕が気に入らなかったみたい。

「本当にくだらない、喧嘩なんてしても解決しないでしょ?」

「うん。ごめんて・・・」

「奈央と恭子がいなかったら、今頃、ひらめは超悪者だったでしょ? 会社関係の飲み会で喧嘩するなんて聞いたことない。手を出していたらクビだよ。分かってる?」

「うん。反省してる」

「本当に頭が悪いとしか言いようがないよね」

「うん」

「なんで、こんな男の周りに人が集まるんだろ?」

「・・・」

「さっきだって、結局、ほとんどの女子が来てたでしょ? なんだろうな。ズルいんだよ。ひらめは・・・。好き勝手に行動して、周りを巻き込んで・・・」

「ごめん・・・」

「ひらめのように生きている人間に憧れるというか、嫉妬するんだよ。普通の人間ができないことを何の苦もなく、やっているから」

「うん」

「自己中心的で、テキトーで、いつも楽しそうで、困ったときには誰かに助けて貰えて羨ましい・・・」

「ごめん。奈央、褒めてるの? 落としてるの? なんか、褒められてる気がしないのは気のせい?」

「そうなんだよ。ひらめは、褒められる人間じゃなくて、ダメな人間なんだよ。でも、みんなが出来ないことをさらりとやっちゃうから、ムカつくんだよ。ヒトとして正しくないんだけど、自由というか、好き勝手というか、自分のことだけ考えて行動しているのに、周りに迷惑をかけてないというか、迷惑をかけているんだけど許して貰えるというか、いい意味あきらめられているというか、期待されていないというか、なんか腹が立つ・・・。奈央は男子たちの気持ちが凄く分かる。一生懸命頑張っているのに、頑張ってない人が評価されるなんて変なんだよ。影で頑張ってるのかも知れないけど、そんなの知らないし、頑張ってるんだったら、頑張ってる姿を見せるべきだし、なんかズルい。ズル過ぎる・・・」

「奈央、大丈夫? 酔ってる?」

「いいから聞けよ。普通に考えてズルくない? こんなにダメ人間を演じていて、捻くれているのに、素直な人間だと勘違いされて、みんなで助けてあげなくちゃなんて思わせて、本当は何でも出来るくせに、やりたくないからやらないだけなのに、最低の人間で腹黒いのに、妙に愛嬌があるというか、嫌われるようなことをしているのに、好かれるとかあり得ない。普通はみんな、嫌われないように行動していて、それでも嫌われるから悩むのに・・・。誰にでも気があるような素振りを見せて、相手の気を引いて、勘違いさせて、相手を悩ませて、本人はのほほんと通常通り生きていて・・・。誰にでも『あなただけが特別』なんて態度で、本当はあっちこっちで特別な人がいて、そのうち、修羅場になって悩めばいいんだ・・・」

「うん、そうね・・・。でもさ、それが俺の生き・・・」

「帰る・・・」

(奈央さん? ちょっと言い訳、聞いてもらっても良いですか?)

一通り、僕の文句を言って、帰り支度を始めた奈央ですが、目も虚だし、真っ直ぐ歩けていませんでした。とりあえず、奈央を小脇に抱え、会計を済ませてお店を出ました。

さて、どうするかな・・・。

以下の投稿に続きます。