底辺からの視線

中年親父目線で気づいたことを雑記的に書き殴るブログ

約20年前にある娘と会って今の自分がいる

こんな話をするのは、照れるので現実、リアル社会では絶対にしないけど、僕には、人生を変えた出会いがありました。

なんとなく、我が半生を振り返ると僕が社会人としてサバイブして来れたのは、悔しいけれど、その娘に怒られ、諭され、感化されたからだと感じています。

こんな話は、本当なら僕の心の底に置いておいて、キレイな思い出として大切にしておけば良く、誰にも伝える必要はないのですが、誰かのヒントになれば嬉しいし、もう連絡も取れず、感謝の気持ちを伝えられない大切な友人をリスペクトしてブログに残しておきます。

クソ生意気な娘との出会い

2000年4月。就職氷河期と呼ばれていた年代。

有効求人倍率が0.6という過酷な就職戦線を勝ち抜き、東証一部上場の大企業に滑り込めた僕は『勝ち組』。

一生安泰のチケットを手に入れ、後は社会の一部として、世間の荒波から会社に守って貰える。という安心感を手に入れた。だけど「好きなことをやりたい」と世間の荒波の中に飛び込んだ友人たちの覚悟や勇気に嫉妬をして、小さく勇気が足りない自分を情けなく思っていました。

世間では『勝ち組』なんて呼ばれているけど、全然、勝ち組ではなく、戦うことを棄権した弱い人間。少なくとも、当時の僕はそう思っていた。

サラリーマンとして働くことは夢を捨てた『負け組』であって、褒められれば褒められるほど惨めな気持ちを抱いたのです。

サラリーマンには夢も希望もない。真の『負け組』はサラリーマン - 底辺からの視線

サラリーマンとして働く意義とか、安定した普通の生活がどれ程大変なのか、なんて考えられる程の知識も経験もなく、ただ世間で言われれる「普通」にはなりたくなかっただけ。

そんな後ろ向きな考えじゃ、したくても就職ができなかった人たちに申し訳ないと自分に言い聞かせていました。

これがサラリーマン、社会人としての生き方。

輝かしい入社式

就職先は一部上場の企業だったので、それなりに新入社員もいて、グループ会社全体で数千人規模の入社式が行われました。

小心者の僕は、入社式の会場までの時間が読めず、早めに会場近くまで移動し、会場前の喫煙所で時間を潰します。当時はそこかしこに喫煙所というか、灰皿が設置されていて愛煙家には天国のような時代でした。

多くの愛煙家が群がる灰皿からちょっとだけ距離を取り、タバコを咥えながら、会場に入る同期であろう新人たちを見て、ゲンナリしました。

(みんな真面目かよ・・・)

リクルートスーツをビシッと着てネクタイもしっかりと締めている真面目な奴しかいない・・・。当たり前のように、サラリーマンになることに疑問も持たず、幸せそうな人たち。友達にはなれそうにありませんでした。

僕が期待していたのは「火ある?」なんてベタな出会いで火を貸して「どうも、どこから来たんすか?」なんて仲間を作る場。なのに、金髪でクルクルパーマ、ネクタイを緩めタバコを吸っている僕をチラチラ見て、目が合うと目をそらす人間ばかり。

ちなみに、なぜそんな頭なのかというとただの失敗パーマです。パーマで髪の毛が傷み、色が抜けてしまったからで故意ではありません。

黒く染めても良かったんだけど、はじめが肝心。なめられないようにという田舎のヤンキーみたいな考え、目立って自分を追い込むというか、世間がいう普通は僕の中では壊すものですあって守るものではないのです。

(クソつまらんな・・・)

なんて思いながらタバコを咥え、缶コーヒーで流し込んでいたとき、数人の女子の集団が目に入りました。

(すげ〜、いい女・・・)

黒のパンツスーツをビシッと着こなし、自信に満ちた足取りで颯爽と歩くショートカットの女子を中心に可愛い女子の集団。なんかスーツ姿の女子ってエロく感じます。感じますよね?

そんな可愛い女子集団に見惚れていると、中心にいたショートカットの娘と目が合ってしまいました。

(ヤバい・・・。エロい目で見てもうた・・・)

内心、ドキドキしていたのですが「目をそらしたら負けだ」という変なプライドがあり、目線を外さずにいると大きな目で睨み返されました。思わず目を逸らしてしまいました。ガンの飛ばし合いは負けです。完敗です。

なんか、だらしない格好をしている自分が悪いような気がしてきて、タバコを消しネクタイをしっかりと締め直し、緩んでいたベルトをしっかりと上げ、真面目モードに・・・。金髪パーマだけど・・・。

それが僕とクソ生意気な娘とファーストコンタクト。第一印象はキツい女。絶対に絡んではいけないと僕の冴えわたる勘が訴えててきました。

新入社員研修で再会する

配属された職場に慣れる前に3泊4日の新入社員研修が行われました。

残酷なもので、入社から1ヶ月も経っていないのに男子の中で『出世レース参加者』と『落ちこぼれ予備軍』の選別が始まりました。僕は金髪パーマ、さらに弱い自分を隠すため「陽気でバカな男」を演じていたので、直ぐに落ちこぼれ予備の筆頭、仕事より盛り上げ役という立ち位置に落ち着きました。

基本的に人見知りで好き嫌いが激しく、集団行動が苦手で、そんな社会人としての欠陥品であることを隠すためのキャラ。凄くツラいけど、会社という組織で生き残るために必要な努力。

ただ研修の講師からも『飲み会要員』として無理矢理ハイテンションで盛り上げる。ほぼ初対面のでお互いに探りを入れている集団。誰かが弾けてバカをすれば、周りはおのずと「あいつより俺の方がマシ」と感じ、心だけでなく、口が軽くなるのです。

人間現金なモノで自分以下の人間を発見し、誰かを見下すことができるようになるとリラックスして話で始めるんです。これ、豆知識。

場を盛り上げ、みんながリラックスして語り始めれば、後は勝手に会話は続く。放っておいても大丈夫。十分仕事はしたよ・・・。

タバコを持って席を立つと何かを勘違いして僕をリスペクトしはじめた男たち、研修の講師たちが「タバコ? 行くかっ」と寄ってきて、小集団を引き連れ、外の喫煙所までご一緒します。

(ひとりになりたい・・・)

僕はひとりになりたくてタバコに出たのに、何か面白いこと言ってくれるんじゃないかと期待に目を輝かせる落ちこぼれ予備軍はどこにでもついてきます。こんな僕をリスペクトしてくれる人たちを無下にもできず、一緒に喫煙所へ。

一服して会場に戻る途中、トイレに寄り、うんこ部屋で時間を潰し、みんなと別れてから、自販機で買ったコーヒーを片手に庭の喫煙所に戻りました。

電球がひとつだけの薄暗い喫煙所のベンチでタバコをふかしていると、入社式でガンの飛ばし合いをした娘が・・・。

「お疲れ。ひらめくんだっけ?」

「うん。そっちは?」

「奈央。よろしく」

「うん。飲んでる?」

「私、お酒飲まないんだ」

「ああ、そうなんだ・・・」

「タバコ?」

「吸わない」

「・・・」

苦手な人間とは距離を取りたいと思いながらもニコニコとバカなフリをしながら、自分の殻に閉じこもり缶コーヒーとタバコ・・・。

僕は、誰からも好かれたいとも思っていないし、自分が好き嫌いが激しいので誰かに嫌われても問題ないと考えていました。なので、嫌われても問題ない人間には冷たい。なんか、お互いに嫌いであれば交わらないのでwin-winだとすら思っています。

(・・・ひとりにしておいてくれないかな・・・)

その娘は予想に反してベンチに腰を下ろした。ちょっと面倒くさいと思いながら、視線を向けると

「ムリしてるでしょ?」

この娘は視線を逸らすことを知らないんじゃないかというくらいの勢いで僕の目を見つめてくる・・・。

「そんなことないよ」

真っ直ぐな視線に耐えられず、また目線を逸らしてしまう・・・。

「嘘つきなんだね」

なんか初対面で「嘘つき」なんて言われて腹が立ったけど、そこは演じているキャラにブレはありません。

「そうかもね」

と笑顔で切り返しました。

というか、上手く隠せていると思っていた冷めた僕を見透かれた気がして焦りました・・・。社会人になって本音を見せたら負けで、建前という鎧で身を固め、弱い本当の自分を守らなければならないのです。それが弱者の生き残り方。

それが奈央との初めての会話。見られたくない本音の部分を見透かれ、より強固に身を固める決心をしたのでした。

先輩の彼女に会う

奈央に冷たく「嘘つきなんだね」なんて言われて答えられずに凹んだんだけど、新入社員は忙しくて気にしている暇もありません。

僕は金髪パーマの変わった新人、そして「かわいい後輩ちゃん」キャラを演じていたので、職場に馴染むまでは時間がかかりませんでした。

嫌っていた人も少なくはなかったけど、その話は違う機会に。

そんなある日、僕の教育係の先輩(仮に『石田さん』とします)から女子を紹介するから、彼女との飲み会に来いとのお誘いが・・・。

女子がいなくても飲みに誘われれば、必ず参加しているかわいい後輩だったので、ただ単に彼女の自慢をしたいだけだという石田さんの思惑はミエミエだったけど、そこはかわいい後輩ちゃんです。

「マジっすか!? 行きますよ!」

「彼女のかわいい後輩、連れて来てもらうわ」

なんて気が重い飲み会に参加することに。

可愛がってくれる先輩の誘いは断れません。だってサラリーマンだもん。

ということで、石田さんと電車に乗り、待ち合わせのイタリア料理屋へ。

はじめまして

彼女さん、石田さんを見つけるとめっちゃ笑顔で手を振ってくれました。

(めっちゃかわいい・・・)

理想の彼女さん。肩まで伸びる髪、程よいスタイル、何よりも笑顔が美しい・・・。

「どうも、ひらめです。めっちゃかわいいですね」

軽口は得意なのです。

「どうも、聞いてるよ〜。よろしく」

声も可愛い。

「こいつ、めっちゃ面白いから。なっ!」

待て待て、石田さん。ハードルを上げないでください。

「あっ、ひらめくん。この娘、知ってる?」

彼女さんの目線の先には奈央。知っているも何も結構、苦手な娘なんですよ。

奈央と目が合うと笑顔で

「久しぶり〜元気だった?」

(・・・なんか違和感)

ちょい待て。奈央さん、そんなキャラだったか? 人のことを嘘つき呼ばわりしておいて、こっちはめっちゃ凹んだのに何もなかった風? というか、そんな仲ではないハズ。

「ああ、同期の・・・。ごめん、名前は?」

(ごめん、ごめんなさい。睨まないでください。そんな目で睨まれるとオシッコ、チビるから。マジで笑えないから)

「・・・嘘、奈央さん。久しぶり」

本気でビビっていた一言なのですが、先輩たちはギャグだと思ってくれたみたいで、ツカミはOK。まあ、お酒が入った僕は最強です。もう、あることないこと先輩を持ち上げ、彼女さんは大爆笑。

これが僕の生きる道。サラリーマンとして、上司、先輩、お客様にクソみたいに媚を売り、嫌われず幸せに過ごすんだ。仕事と割り切れば全然問題ありません。

そして解散

えー。宴もたけなわでございますが、約2時間、石田さんのご機嫌を取り、彼女さんの心を鷲掴みにした楽しいお時間も残り少なくなってまいりました。

笑顔を絶やさず、つたない盛り上げ役もお役御免のお時間です。

「ありがとう。ひらめくん。また飲みに来ようね!」

「今度は石田さん抜きで来ましょう! 誘ってくださいよ。ケータイ番号教えておきますね」

「待て待て。ひらめ。それはおかしいだろ?」

「えー。良いじゃん? ヨッシーが忙しいとき、ひらめくんと飲んでるよー」

「僕はいつでもOKっす。というか、石田さんに内緒で行きますか?」

石田さんも冗談が分かる人なので楽しく解散。

「おう、ひらめ。また来週! 後は若い子で楽しめよ」

なんて先輩方二人は夜の街に消えていきました。

めでたし、めでたし・・・。

残された気まずい男女の話、その後については以下の投稿に続きます。

約20年前にある娘と会って今の自分がいる2 - 底辺からの視線